全再猫スクロールバーテスト委員会

サンプルテキストは お話の欠片より「らせんアンド会議室」

らせんアンド会議室

真四角の部屋のちょうど真ん中に、細長い丸いテーブルが置いてある。その周りを囲うように、たくさんの椅子が並んでいる。
木組みの椅子、森のキノコのような椅子、公園のベンチ、映画館の座席、ダイニングテーブルの椅子、宇宙船の椅子、芸術家にプレゼントされた座りづらいけど美しい椅子、いろいろある。どれも一人用の椅子だ。
でも、この会議室にいるのは四人だけ。
みんな大抵同じ椅子に座る。座るのに、「いつ誰が来てもいいようにね」とでも言うかのように、並んだ椅子たちはチャーミングに待機する。
部屋の真ん中のテーブルの真ん中、王様のようなふわふわの飾りのついた椅子がアンドリューの定位置だ。しかし座っているよりあたりをうろついていることのほうが多い。
彼ノは一本の足をテーブルに上げ、なにやら情熱的に主張を始める。
「だから、コンピューターの配線なんか忘れて、部屋の掃除をしてお紅茶淹れて生きようって言ってるんだよ。簡単なことだろう」
そう言い放つと、アンドリューは片手にティーカップ、もう片手にティーポットを持って紅茶を注ぎはじめ、徐々にティーポットの位置を高くしながら右足を軸にしてくるくる回転する。速度は上がり続ける。彼ノの腕と紅茶の流れる色が、ユニークな螺旋を描いて印象に刻まれてゆく。腕は伸び、回転は続き、ついにティーカップとポットの距離はアンドリューと他の者たちの心の距離と同じくらいの長さに、回転する速さは第一宇宙速度に達した。
アンドリュー紅茶螺旋を眺める会議室の面々は、その美しさに釘付けだ。
「これはいい。ぜひ記録に残そう」とコンニャックは言う。彼ノは改造しすぎた宇宙船の椅子に座っている。かつては異星の超技術だったものが、今ではパッチワークだらけの座椅子に見える。しかしその機能性は保たれたままだ。
「コンピューターの件を煙に巻こうとしてるのか」とミトロンモリア。パイプ椅子や小学校の椅子に座り、ほとんどの椅子を一分とか一日とか早ければ一秒で使い潰す、会議室一の働き者だ。
フランチェスカは扉のすぐ隣の壁際にゆらりと立ち、おしゃれなコートハンガーに上半身をもたれかけて、分厚いコートを着たまま螺旋を見つめている。
アンドリューの螺旋が終わった頃には、とっくに日付が変わっていた。待機していた楽団も徹夜で疲れてしまって、ラッパの音は葉っぱ笛のように弱った音になっていた。コンニャクは楽団について、
「彼ノらが疲れているだって? ありえない。彼ノらは疲れる機能を持たないし、眠れない。寝たり起きたりするためには、寝ると起きるを入れる箱が必要だろう。彼ノら自体がそれなんだ。彼ノらの音楽なんだ!」とまくしたてた。私への反論である。そんなに合っているとは思えないが、まあ黙認する。
アンドリューは黙ってコンニャックを見つめながら、なにか思うところがあるようにメガネのフチを毎秒少しずつ太くしていく。太くなりすぎたメガネのフチが絶望的な速さで大きく広がり、朝顔のツルのように無遠慮に部屋中を覆うかと思われたとき、フランチェスカはアンドリューに近づいて、そのメガネを外して丸メガネにかけかえてあげた。優しいところもあるものだ。
そこへとうとう楽団が部屋に入ってきて、懸命に演奏をしながら、長いテーブルの上を歩いていく。
音楽は見事だけど、パレードは見れたものではない。退屈だった。
彼ノらの足は最近ほんとうに短くなってしまって、テーブルを一周するのも一苦労だ。すごく時間がかかる。かかる時間はそのまま時間として感じられるので、「いやあ、かなり時間がかかるのだなあ」と誰もが思うものだ。だからどうしても、このようにして文字数を埋めて潰さなければならない。働き者のミトロンモリアの椅子つぶしのように、時間を稼ぐ、働くぞ、こうやって、文字数(つまりは言葉の量、文字の数のことを言うよ。)を、そうそう、まさにこのように、句点で稼いででも、埋・め・な・く・て・は。