ダクスフンドの家はダクスフンドハウス。
土偶が置いてあるのでお客さんも来る、そんなハウス。
ダクスフンドハウスの周りには、いつの間にかたくさんの人が引っ越して来た。屋根がひとつ、巣がひとつと建ち始め、小さなお店もいくつかできた。広い道にせまい道、計画して作られた道と成り行きが生み出した路地裏がつながり、秘密の迷路のような近道も隠し持つ、ダクスフンド・タウンができあがった。
ある時ダクスフンドは町の地図を描き、家の近くに看板として設置した。地図の中、ダクスフンドハウスは真ん中より少し右下にずれたところに小さく描かれている。
やがて広がり続ける町が地図を埋め、地図はさらなる白紙を求めた。さらなる町の続きは、ダクスフンドの胴体のように美しい横長の形であるべきだと、住民たちが主張する。その声は町を引っ張るかのように横向きに伸びていく。
町を具体的にどのように広げるかについてのおしゃべりで、そこら中に人だかりができていた。集まっては解散し、解散しては集まる。あまりにも頻繁な会議のために、第二ダクスフンドハウスが建てられた。第二ダクスフンドハウスとは名ばかりで、ダクスフンドが住んでいるわけではない。
第二ダクスフンドハウスには、佐藤フラッペなる匿名人物の寄付した冷蔵庫が置かれている。冷蔵庫はダクスフンドのポケットマネーで支払われている電気代によって24時間稼働しているので、いつ訪れても冷たいオレンジジュースを飲んで楽しむことができる。もちろん、曲がるストローも準備してある。
その日の第二ダクスフンドハウスは珍しく静かだった。もうすぐ会議が始まり、いつものにぎやかさが戻るだろう。だけど今はまだ、ダクスフンドひとりが過ごしていた。
ダクスフンドは曲がるストロー作りをしている。器用な手が、カラフルなプラスチックの筒に見事なじゃばらを折りつけていく。あらゆるじゃばらの扱いは、ダクスフンドの得意分野だ。じゃばらとダクスフンドは似ている。長く横へと伸びるもの同士だ。
もくもくと折り続け、たまにストローの端を切り落とす。また一つ新しい曲がるストローが完成したその時、ダクスフンドの内面で、新たなひらめきが生まれ始めた。
「曲がるストローのじゃばらの部分は、なんだか……」
理解不能なもやもやは、わかりやすい形よりも素早く進み、頭にたどり着いてズレた言葉になる。ダクスフンドはしばらくぼんやりとして、壁際に設置された冷蔵庫をなんとなく眺めた。
それから目を閉じて、新しいひらめきに付き合ってみることにした。
ひらめきは最初、内側に何かを隠した雲のようなイメージとして表れた。それは動き続けて、輪郭がどんどん変わり、でこぼこの小さく固く丸い形になって止まった。まるで神様が初めて作った月のようだった。
目を閉じたまま、このひらめきの小さな殻を観察しようとする。確かにダクスフンドの内側にあるはずなのに、どこか遠い存在のように感じられて、上手く捉えられなかった。ダクスフンドの頭としっぽは、長い胴体を間にはさみ、同じ体にありながらそれほど親しくない。例えるならそんな感覚だ。
そこへ、会議の時間がやってきた。玄関のドアをリズミカルにたたく音が響き渡る。ざわめきと期待に満ちたタウンの住民たちが、第二ダクスフンドハウスにざわざわと入って来た。
ダクスフンドのひらめきは割れかけて、ヒビを保ったまま眠りについた。ひらめきは、雑多でカラフルな時間が終わるのを待つ。
会議が始まった。活気にあふれた会話は脱線を重ね、生き物のようにうねる。住民たちは楽しげにあれこれと話し、ダクスフンドの顔色を時々確認する。今回のおしゃべりは、ダクスフンドの銅像を作ろうという方向へ進みたがり、実際に進んだ。
ダクスフンドはいつでもどこでも誰にでも、賛成も反対もしない。住民たちの話は早く、自信はあり余っている。だから住民たちがダクスフンドの銅像を作ると決めるのは簡単なことだった。たくさんのおにぎりをクーラーボックスに詰め、ダクスフンドにもらったオレンジジュースを水筒に入れると、列を組んでニコニコスマイルで山へ出かけて行った。
一人残ったダクスフンドは、冷たいオレンジジュースを飲みながら、会議の前に何かをひらめきかけていたことを思い出した。一体、何をひらめきかけていたんだっけ?
いつも何か思い出す時には、家に置いている土偶と同じポーズを取る。ほとんどの思い出し対象にはこれが効く。でも、今回は何も浮かばない。うーん……。
まあ、いいか。もしも強いひらめきならば、ダクスフンドの忘却の繊細でダイナミックな自然選択の過程を経ても、残ってくれることだろう。今日はもう家に帰って、CDを聞くことにしよう。何度も聞いたCDと一度も聴いていないCDの所持数の比率を一対五に保つことが、ダクスフンドの美学である。
★☆★ダクスフンド・ダイアリー☆★☆
No. 123 ☀️☁️
今日の会ギも、ざわめきのときめきのひととき。おしゃべりの枝はのび、好きにのび、空と地めんに広がってる。
今日は、アンドリューさんがソフトクリームをくれた。
ソフトクリームは、のびない。巻かれ、まとまる。おいしかったです。ありがとう。
今日のCDは、「ミュトスの光り方」