ダクスフンド・タウンに秋が来る。全ての季節は大嵐が連れてくる。天気や季節やダクスフンドといったものは、とても大きく横長で、決してコントロールできないものだ。
嵐の日や雨の日ばかりが続いていた。
濡れたら溶けてしまう者も多いので、住民たちはあまり外に出られない。だから銅像作りはほとんど進んでいなかった。
ダクスフンドは、タウンの誰よりも雨に強い。お気に入りの透明オーロラフリル付きの雨傘を持ち、黄色いレインブーツを履いたら、どんな場所にでも行ける。おにぎりファクトリーに配達の仕事を頼まれることすらあるくらいだった。
ダクスフンドはフラッピーと知り合ってから、彼ノのいる第二ダクスフンドハウスによく通うようになった。これはそんなある日の出来事だ。
「そうなんだ。ダクスフンドなら何にでもなれそうなのに、もったいない」
フラッピーは人懐っこい調子で言う。からかっているのか褒めているのか、簡単には見分けられない親密さが込められていた。
「そういうフラッピーには、何か夢とかなりたいものとか、ないの?」
ダクスフンドは、おしゃべりのスポットライトを別の方向へ向けようとして、問いかけてみた。
「お、いいこと聞いてくれたね。夢ならあるよ!」
「なに?」
「教える前に、ハウス中の部屋の電気を消してきてくれない? フラッピープレゼンツのこだわりを演出したいんだよね」
フラッピーは謎の要求をし、ダクスフンドは素直に従う。ハウス中を歩き回って電気を全て消すと、昼間なのにほとんど真っ暗になった。外の大雨は斜め向きに降り続け、太陽はタウンに届かない。
部屋に戻ると、フラッピーが空っぽの冷凍室の扉を少しだけ空けて、灯りの代わりにしていた。
「こほん。それじゃあ、話すけど。フフッ」
フラッピーはなぜか笑った。
「本当は、大した話じゃないんだ。電気を消す必要なんてないし……」
ダクスフンドは体を前に傾け、長い耳をぱたぱたと持ち上げて、フラッピーの話をちゃんと聞いているよと非言語で伝える。
「ダクスフンドなら『いいね』って言ってくれるはずなのに、言いづらいな。私ね、実は……作家になりたいんだ」
その言葉を聞いて、ダクスフンドは二秒ほど固まった。
「ダクスフンド、何か言ってよ〜!」
「いいじゃん、作家。でも、サッカって何だっけ?」
「作家を知らないの? 小説家だよ、お話を書く人。ダクスフンド・タウンには本はないの?」
「本はあるけど、すごく珍しいよ。フラッピーがそう言うなら、この町にも図書館があったほうがいいね……」
ダクスフンドが目を閉じて願いを込めると、ダクスフンド・タウンの片隅に、小さいけれど立派な図書館ができあがった。
「ダクスフンド、急に目を閉じて、どうしたの?」
「なんでもない。ねえ、どうして作家になりたいの?」
「これ、っていう理由はないけど」フラッピーはいつもよりも慎重に、言葉を選んで話し始める。「ここからタウンのみんなを観察してたら、いろんなヒトがいるんだなあって思って。それで……」
フラッピーはしばらく、物語への愛着と過去の思い出を、ぽつりぽつりと話した。この町に来る前は大型機械デーの映画館に毎週のように通ったこと、親が毎年誕生日に本をプレゼントしてくれたこと、いとこが出版した絵本に感動したこと……。
ダクスフンドはあいづちをうちながら、フラッピーに背中を預けて床に座りこみ、オレンジジュースを飲みつつ話を聞いた。
「でも、どんなに頑張っても冷蔵庫に文字は書けないからね。鉛筆もタイプライターも内蔵コンピューターの利用も試してみたけど、私じゃ機能が足りないって感じ」
「……そっか」
ダクスフンドは何と言ったらいいのかわからなくて、冷蔵庫であるフラッピーの扉をあけて、オレンジジュースを手元のコップに継ぎ足した。
その時、フラッピーの冷蔵室の明かりが、オレンジジュースのハッピーな色を照らした。反射したオレンジ色の光がダクスフンドの目に入り、ひらめきが宿る。
「そうだ。フラッピーがお話の内容を喋って、ワタクシが書き留めるのはどうかな」
我ながら良い案だ、と思った。でもフラッピーはそう思わなかった。
「ダクスフンドは優しいね。でも、自分で書きたいって思うのは、望みすぎかな」
いつもハイテンションなフラッピーの、少し雨模様な様子を見たダクスフンドは、彼ノを助けたいと強く望んだ。ダクスフンド・ハートはひとつの方向を向き、ダクスフンド・ボディは土偶のポーズを取る。その集中っぷりは、横長の体が縦長になるほどだった。
(フラッピーに腕を生やす? 冷蔵庫用のタイプライターを作る? そういえば、隣町で大きな事故にあった電子レンジが、鉛筆削りへの改造手術を受けたって聞いたな。でも、改造なんて危険な手術、フラッピーにすすめられない)
ダクスフンドは考え込み、土偶のポーズで半日過ごした。フラッピーは返事をしなくなったダクスフンドを見守っているうちに、眠くなって寝てしまった。
翌朝、もう何も思いつかなくなったダクスフンドが意識を取り戻すと、フラッピーがハイテンションに騒ぎ回っていた。
「おはよっ! ダクスフンド、やっと起きたね。ねえねえ見てよ、文字が書けるようになったんだ! 私のコンピューターでも数字なら打てるから、それを変換して文字にしてるの。で、第二ダクスフンドハウスのプリンターから印刷してるんだ。すごくない? 私って天才かも。イェイ!」
嬉しそうなフラッピーを見て、ダクスフンドもダクスフンド・ハートも、とてもハッピーになった。ダクスフンドはフラッピーの夢への一歩をお祝いするために、タウンで一番の紙屋さん兼文房具屋さんに行き、キラキラA4用紙30枚セットを購入し、一番お気に入りの透明オーロラリボンでラッピングして、フラッピーにプレゼントした。フラッピーは大喜びし、その紙を使ってダクスフンドに手紙を書いた。
「文字が書けるなんて夢みたい。まあ、電気代はすっごくかかってるけどね。そこはごめんね、ダクスフンド」
ダクスフンドはいいよと言って笑うと、ほどかれたリボンを蝶結びにしてフラッピーの扉に飾りつけ、オレンジジュースを飲みながら、念のため財布の中身を確認してみた。それから二人は一日中、真っ暗な夜も大嵐も忘れて、筆談でおしゃべりして楽しんだ。絵しりとりもしたらしい。
★☆★ダクスフンド・ダイアリー☆★☆
No. 138 ☔️⚡️
昨日は、日記を忘れた。昨日は、タウンに図書館を作った。
今日は、フラッピーが、文字を書けるようになった。
明日の予定、久しぶりの会ギ。雨だけど、みんな大丈夫かな?
今日のCDは、「カオスフルーツ」